“韓国鉄道博物館展示車両”


ソウル地下鉄1号線から直通する国鉄京釜線の国電(京釜電鉄線)に乗って、ソウル駅から1時間弱で儀旺(ウイワン)駅に着きます。駅前に高い建物はなく、地方都市の雰囲気です。

▲ 韓国国鉄京釜線儀旺駅

駅から線路に沿って南(水原方面)へ、裏道のようなところを10分ほど歩くと、鉄道博物館があります。すぐ横を走る京釜線の車窓からもよく見える、大きな看板があります。

500ウオン(約60円)の入場料を払って中に入ると、古くは日本の統治時代から、最近まで国鉄線上を走っていた車両まで、数多くの展示車両が出迎えてくれます。

▲ 鐡道博物館の大きな看板 後ろは休憩所になっている客車

日本のD51と同じ、1D1の軸配置のミカ3型蒸気機関車161号機はアメリカンスタイルですが、1940年の日本製で、朝鮮総督府鉄道(鮮鉄)が導入し、韓国国鉄でも活躍したそうです。

▲ ミカ3型蒸気機関車161号機

日本のC57やC59と同じ、2C1の軸配置のパシ5型蒸気機関車23号機もアメリカンスタイルですが、やはり日本製で、朝鮮総督府鉄道(鮮鉄)から韓国国鉄で活躍したそうです。とんがり屋根の煙突の蓋だけは何とかならないでしょうか。

▲ パシ5型蒸気機関車23号機

線路の幅がわずか762mmナローゲージのローカル線で活躍した蒸気機関車、ヒョゴ11型13号機は、ドームが角形で工作を簡易化した戦時型のようです。

▲ ナローゲージの蒸気機関車

もう1両、赤錆びた蒸気機関車の残骸が展示されています。ハングルが読めないのでよくわかりませんが、朝鮮戦争で破壊された機関車の残骸ではないかと想像します。

▲ 赤錆びた蒸気機関車の残骸

ディーゼル機関車3102号は1960年頃のアメリカンロコモティブ製。この時代の日本のディーゼル機関車はDF50でしょうか。出力等性能面では外国製に太刀打ちできなかったのでしょう。その後も、韓国に日本製のDLは導入されていないようです。

▲ 1960年頃から旅客列車の先頭に立ったディーゼル機関車

日本の特急電車によく似た車両がいます。韓国版TGVのKTXが開通するまでは電化区間が少なく、優等列車の大半が客車列車やディーゼルのプッシュプルだった韓国で、1980年に山岳路線のため電化されていた中央線の急行に相当するムグンファ号用に、日本の電気品を使用して韓国で車体を造った電車です。

▲ 9900型電車9904号

車内は転換式クロスシートで、回転式のリクライニングシートの90年代以降のムグンファ号の客車に比べると居住性が劣るため、末期にはトンイル号に格下げされたそうです。日本では、同世代の485系がまだまだ活躍している中で、この車両が博物館入りをしているのは、今では世界に鉄道車両を供給している韓国ですが、80年当時の技術レベルは日本とは格差があったためと見受けます。

▲ 9900型電車のシートは転換式

1001号は、1974年に京釜線のソウル近郊区間が電化したとき、ソウル初の国電として同時期に開通した地下鉄1号線に乗り入れた車両で、2000年まで京釜電鉄線を走っていたそうです。日本製で、一足先に引退した東西線乗り入れ用の301系にそっくりですが、戸袋窓はなく車体は普通鋼製です。

▲ 韓国初の国電は日本製

1001号と一緒に、韓国で製造した国電が並んでいます。車内は幅の広い大陸サイズではあるものの、同時期の日本の301系や103系にそっくりです。あとから改造で冷房化していますが、クーラーは集約分散型が乗っています。

▲ 韓国製の車両も含め日本の103系にそっくりの車内

青と白の普通列車ピドゥルギ号(今はない)塗色の、日本のキハ52によく似たディーゼルカー672号は、1963年の新潟鐵工所製で、床下には2台のエンジン、車内は同時期の日本の国鉄と同じボックスシートです。

▲ 日本製のディーゼルカー

ナローゲージの小さなディーゼルカーがいます。儀旺から3駅先の水原(スオン)と仁川(インチョン)をむすんでいた、線路幅が762mmのナローゲージの水仁線で活躍した車両です。両運転台で、台車は菱枠型を履いています。後ろに連結しているのは、エンジンも運転台も持たない付随車で、日本式にいうとキサハです。

▲ 水仁線のディーゼルカー

展望車のようなオープンデッキのある重厚な客車は1927年製で、日本の統治時代は、朝鮮総督府鉄道の釜山と南満州鉄道の奉天(現在の中国の瀋陽)をむすんだ急行“ひかり”に使われた展望車だそうです。

▲ オープンデッキのある大統領専用車はもと鮮鉄急行の展望車

戦後は大統領専用車となり、初代李承晩大統領と第2代朴正煕大統領が使用したそうで、デッキには朴大統領と米国ジョンソン大統領が並んで写った写真が掲示してあります。

デッキの窓から覗いた車内は会議室のようです。片廊下で、この奥にもいくつか部屋があるようです。

▲ 大統領専用車の車内

その隣にも展望車が展示されています。これも日本の統治時代は、朝鮮総督府鉄道の釜山と奉天をむすんだ急行“のぞみ”の最後尾に連結された展望車だそうです。展望デッキが密閉式に改造され、Hゴム支持の窓が追加されているのが残念……。

※ 釜山-京城間特急"あかつき"の密閉式展望車としていましたが、展望デッキが開放の"のぞみ"の展望車に戦後に端面に外板を設置して、密閉式に改造したものと判明したので訂正します。

▲ もと鮮鉄急行の展望車

戦後は韓国駐留のアメリカ軍が使用していたそうで、車内の壁には大きな韓国の鉄道路線図があります。

▲ 米軍が使用していた展望車の車内

これらの展望車は、いずれも重厚なイコライザー式の3軸ボギー台車を履いています。

▲ 展望車が履いている3軸ボギー台車

クリーム色に窓周りが緑の客車は、統一(トンイル)号の客車です。日本でいえば準急に相当する列車でしょうか。今では、この列車種別は通勤列車(トングンヨルチャ)になっています。

▲ トンイル号の客車

トンイル号の車内は、白いカバーのついた背ずりが転換式のクロスシート。日本の1960年代なら1等車としても通用する、グレードの高い車両です。

▲ トンイル号の車内は転換式のクロスシート

車体が短かく窓の小さなトンイル号塗色の客車は、暖房車のようです。車内にボイラを搭載しています。

▲ 暖房車

2つずつの狭窓が対になった車両は、普通列車に相当するピドゥルギ号の客車です。ピドゥルギ号使用する客車やディーゼルカーの廃車で、この列車種別も無くなってしまいました。

▲ ピドゥルギ号の客車

ピドゥルギ号の車内は、2つの窓割に合わせたボックスシート。車両が大陸サイズのため、ゆったりとしています。照明は白熱灯のようです。

▲ ピドゥルギ号はゆったりとしたボックスシート

暖房車やピドゥルギ号の履いている台車は、軸バネに板バネとコイルバネを併用しているのでしょうか、日本では見かけないタイプの台車です。

▲ ピドゥルギ号の客車の履いている台車

もう1両、ピドゥルギ号塗色の小さな客車がいます。ナローゲージの水仁線の客車で、車体幅が狭いためか車内はロングシートです。

▲ ナローゲージの客車

大きな操重車も展示されています。煙突があるところを見ると、動力源は蒸気機関のようです。

▲ 大きな操重車

ナローゲージの有蓋貨車と無蓋貨車があります。隣は保線に使用する機械でしょうか。

▲ ナローゲージの貨車と保線機械

他の展示車両と離れて、入り口の近くにはムグンファ号塗色の客車が来館者の休憩所となっています。

▲ 休憩所になっているムグンファ号塗色の客車

2階建ての屋内展示館にはいると、蒸気機関車の模型が出迎えてくれます。模型や写真のパネルで韓国の鉄道を紹介していますが、日本の100系新幹線や、JR九州の特急列車の模型もあります。

▲ 展示館の正面入り口にある蒸気機関車の模型

2階にあがると韓国版TGVであるKTXの大きな模型があり、信号機や踏切、自動改札機などの実物が並んでいます。

再び1階に降りると、壁に機関車のナンバープレートやメーカープレートが並んでいます。日本のメーカー名も見られます。

▲ 丸いナンバープレートは蒸気機関車の正面に取り付けられていたもの

電車の運転シミュレーターは、韓国でも子供たちに大人気。長い行列ができていました。

▲ 運転シミュレーターの順番待ち

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