“消えゆく台湾の旧型客車列車”


2005年秋に予定されている新幹線の開業を待たずに、2005年1月のダイヤ改正で、台湾西部幹線の旧型客車による長距離鈍行(平快)が姿を消しました。

平快は、 電気機関車が長い編成の旧型客車を牽引していました。日本人にとっては、1980年代以前の日本国有鉄道の雰囲気を今に伝える列車だっただけに、寂しい気がします。

▲ 西部幹線彰化駅で自強号(右)に道を譲る松山発高雄行き平快1515次(左) 2004/12/24

台湾の列車には、運賃の高い順から、1.自強号、2.莒光号、3.復興号・冷気柴客・電車、4.平快・普通の4種類があり、それぞれ使用する車種 と塗色が異なっています。

自強号は電車、気動車または両端の機関車が中間に付随車をはさむ編成の、日本の特急に相当する列車で、車内はリクライニングシート。莒光号は機関車がリクライニングシートの客車を牽引する特急相当の列車。復興号は機関車がリクライニングシート(シートピッチが少し狭い)の客車を牽引する急行相当の列車。冷気柴客はクロスシートのステンレスの気動車、電車はロングシートの通勤電車で、各駅停車。平快と普通は機関車が旧型客車を牽引する列車で、デッキ付きの回転クロスシートとデッキ無しのセミクロスシートまたはロングシートの車両があり、一部平快に通過駅がありますが概ね各駅停車です。

▲ 平快1515次の客車は冷房付き 行き先は右から“往高雄” デッキのドアはもちろん手動

回転クロスシートの平快より、ロングシートの通勤電車の方が運賃が高いのは、電車には冷房があるからとの理由だそうです。暑い季節の長い台湾では 冷房が重要で、故障すると運賃の20%を返却すると“客運業務摘要”の“冷氣費”の項に書いてあります。

▲ 日本の国鉄のスハ44系を近代化したような平快1515次の車内 回転式クロスシートが並ぶ

この日の松山(台北の隣の駅)発高雄行き、西部幹線の平快1515次は、冷房付きで復興号色の客車が連結されていました。ただし、シートは日本のスハ44、スハフ43のような回転クロスシートで、 本来の復興号のようにリクライニングはしません。平快用の旧型客車を冷房改造して復興号に格上げした車両が、再び平快車に戻された、乗客にとってはお得な列車です。

▲ 嘉義駅で“行李”と書かれた荷物車に手荷物の積み込み中

米国GE製の電気機関車に牽引された平快1515次は、台北を早朝5時35分に発車し、主要駅で優等列車に道を譲りながら、8時間近くかけて高雄を目指します。 自強号なら4時間、新幹線ができれば1時間半の距離です。走行中も、デッキの手動扉は開いたまま。乗客は短区間で入れ替わります。

機関車に続いて客車が6両、さらに後ろに続く2両は、日本ではもう見かけなくなった荷物車です。主な駅では、今でもホームで手荷物の積み降ろしが行われています。

▲ かつての日本の国鉄と同じ荷物車の車内

日本型の旧型客車、狭軌の線路、左側通行、車窓に見える日本企業の看板など、1980年代以前の日本の国鉄の汽車旅そのものが、ここ台湾に残っていました。

冷房車のため窓は固定に改造されていますが、冷房の故障時を考えてか、前後の車端の窓だけは開きます。台湾南部とはいえ、年末ですから気温は25℃程度。何年も開けたことのないであろう窓を、力を込めて全開し、心地よい風に吹かれながらの旧型客車列車の旅です。

▲ 左側通行 ホンダの看板 かつての日本 と変わらぬ風景を行く旧型客車

ダイヤ改正前の台湾の最長距離鈍行は、高雄を9時5分に発車して西部幹線を北上し、台北経由して東海岸の花蓮に22時に到着する、13時間かけて台湾を3分の2周する平快166/193次でした。こちらは、オリジナルの冷房無し、紺に白帯の平快・普通塗色の客車が使われていました。 逆方向の平快196/169次は花蓮を夕刻の18時27分に発車し、台北が23時48分、高雄に翌朝7時37分に到着する夜行列車でした。

▲ 高雄発台北経由花蓮行き 台湾の最長距離鈍行だった平快166次

平快166次の電気機関車の次の莒光号塗色の荷物車に続く、車体の中間に両開き扉のあるロングシートの客車2両も荷物車代用です。荷物車が3両に旅客車が4両の編成ですから、日本の1980年代の国鉄と同様に、荷物輸送のために客車鈍行が残っていたのかもしれません。

▲ 旧型客車に取って代わった韓国製ロングシートの電車 台湾版701系ですがワンマンではありません

2005年1月のダイヤ改正で長距離の客車鈍行は、短距離の通勤電車に分断され、台北駅に出入りすることはなくなりました。

現在の時刻表は、台湾省鉄路管理局のホームページでご覧ください(繁体字中国語Big5フォントをインストールしてください)。2005年4月現在で旧型客車の平快は、西部幹線では彰化以南に、東部幹線では宜蘭−花蓮間、花東線の花蓮−台東間、南廻線の台東−枋寮間に、それぞれ1〜2本だけになってしまっい、もはや風前の灯火です。

唯一、台湾南部、屏東線の高雄−屏東間だけは、ディーゼル機関車牽引の普通列車が14往復と、今でも旧型客車列車で賑わっていますが、ここの客車はデッキ無し、両開き扉セミクロスシートの通勤型で、旅情を味わうにはちょっと、といった感じです。

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