“オーストラリア NSW鉄道博物館のレイルモーター” |
オーストラリア大陸南東部、ニューサウスウェールズ州。州都シドニーはオーストラリア最大の都市。そのシドニーの南西、直線距離で89kmのところにある Thirlmere(サールミア)の村。ここを通る鉄道の廃線により廃止されたサールミア駅を活用して、南半球最大規模の鉄道博物館、ニューサウスウェールズ(NSW)鉄道博物館があります。
シドニーから公共交通機関を使って訪問するには、かなり不便なところ。シドニーの中央駅から、市の周辺や郊外に7つの路線を運行するシドニートレインズのT2系統の電車で1時間と少々のキャンベルタウンへ。昼間は2時間に1本の非電化ローカル線のディーゼルカーに乗り換え、30分余りで着くのがタフムア駅。1日数本、土曜は本数が減り日曜は運休のバスでやっと到着したNSW鉄道博物館。
2019年正月の週末には、廃線を活用したクラシックなディーゼルカーの運行、“SUMMER RAIL MOTOR RIDES”が行われ、NSW鉄道博物館の構内にある廃駅サールミアからディーゼルカーに乗り、廃線を使って往復40分の小旅行。その任務に当たっていたのが、車体側面の窓上にRAIL MOTORと標記したディーゼルカー。
▲ サールミア駅に停車するレイルモーターCPH27号
英語のRAIL MOTORは日本語の気動車のことで、ローカル線の小運転に使用するディーゼルカーやガソリンカー、古くは蒸機動車も含まれるらしい。屋根上のラジエターが特徴的なCPH型は、1923年から州内各地のローカル支線のフィーダーサービス用に37両(他にエンジンのない付随車が5両)製造された、電気溶接で組み立てた軽量台枠上に木造車体を乗せた機械式のガソリンカー。カウキャッターのようなスカートは、カンガルー除けでしょうか。
1945年にディーゼルエンジンと油圧トランスミッションに換装。総括制御が可能となり、付随車にも運転台が設置されたとか。最後まで使用された2両が引退したのは1985年だが、今も37両中10両以上が州内各地で動態保存。NSW鉄道博物館はCPH12号を所有しているはずだが、当日は館内で見かけず。この日に乗ったCPH27号はオーストラリアの首都、キャンベラ鉄道博物館の所有らしい。
▲ 片側の屋根上にはラジエター
台車も軽量化されているもののイコライザー式で、この車両から10年ほど後に登場した日本の機械式ガソリンカー、キハ41000やキハ42000の華奢な菱枠型に比べるとしっかりとしたつくり。
▲ イコライザー式の台車
NSW鉄道博物館の構内にある、サールミア駅のホームは片面のみ。3ヶ所の扉は内側への開き戸で、乗降は踏み段が置かれた中央の扉から。後方の線路は営業中のローカル線に接続するピクトン駅に続いているけど、踏切では線路の方に設けた扉が閉じられています。乗務員はNSW鉄道の定年退職者を含むボランティアでしょう。
▲ 乗降は中央の扉から
CPH27号の車内は、中央のドアから屋根上にラジエターのある側が2等室、ない側が1等室に分かれています。
▲ 車体中央のデッキ
木製でニス塗りの車内。エコノミーの標記がある2等室は、2人がけと3人がけの転換式クロスシート。中央扉の隣の小部屋はトイレでしょう。
▲ エコノミー表示の2等室
中央に設けた狭い運転室は独立していて、運転席の後部に開き戸。その両側に前面展望席があり、左右の乗降扉と2等室の間に仕切りはありません。
▲ 中央に運転室
転換式のクロスシートの背ずりのクッションは片側だけ。転換すると、背ずりの上面が半回転して座面に接する、オーストラリアの古い車両では一般的な構造。
▲ 転換式のクロスシート
ファーストの表示がある1等室は、前方と中央の両王のデッキとの間に壁があり、開き戸を設置。
▲ ファースト表示の1等室
1等の座席も、2等と同じ転換式のクロスシート。
▲ 1等室も2等室と同じシート
1等室側の運転室も中央に設置されているけれど、背後に扉は無くデッキと一体の構造。その両側には前面展望席。車両の前後で運転席周辺の構造が異なるのは、荷物スペースの設置等の後年の改造によるものらしい。
▲ 1等室側の運転席と両側の前面展望席
発車するとすぐに車掌さんの検札。乗車するには、博物館の入場料とは別に切符が必要です。車掌さんの向こうに隠れてしまったが、デッキは広く座席も設置。この部分も1等の扱いだったのでしょうか。今のSUMMER RAIL MOTOR RIDESはモノクラスですが。
▲ 車掌さんの検札
本線の横に客車が並んでいます。この日の運行はレイルモーターだったけれど、動態保存の蒸気機関車やディーゼル機関車の運行時には、乗客を乗せて走るのでしょう。
▲ 客車が留置された隣の本線を行く
博物館を出ると、こんな何もない田舎に単線の線路が続いています。
▲ 沿線風景
運転士さんは、アクセルからもブレーキからも手を放してのんびり前方を見つめます。
▲ 運転席の両側はかぶりつき席
車内の乗客の多くは、週末に鉄道博物館を訪れた家族連れ。
▲ 2等室の乗客と車掌さん
途中一ヵ所の駅を通過して、サールミアから15分ほどで2駅目のバックストンに到着。ホームは片面だけで、機関車を付け替えるための機回り線があります。
▲ バックストン駅に到着
乗客も乗務員も車外に出て休憩。
▲ 折り返し待ちのレイルモーター27号
今度はラジエターのある側を先頭に、鉄道博物館に戻ります。
▲ 2等室とデッキの仕切りがない
線路わきに放置された台車群や、動態保存の機関車が見えてきました。
▲ 鉄道博物館の留置車両が見えてきた
全線で1閉塞なのか、腕木式信号機は動いていない模様。
▲ 腕木式信号機
サールミアに戻ってきました。往復40分の楽しい小旅行です。
▲ サールミアに帰着したレイルモーターCPH27号
“SUMMER RAIL MOTOR RIDES”の様子を動画でご覧ください。
▲ レイルモーターCPH27号の動画