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“オーストラリア ニューサウスウェールズ鉄道博物館”

シドニー中央駅から列車を乗り継いでNSW鉄道博物館へ

オーストラリア大陸南東部、ニューサウスウェールズ州。州都シドニーはオーストラリア最大の都市。そのシドニーの南西、直線距離で89kmのところにある Thirlmere(サールミア)の村。ここを通る鉄道の廃線により廃止されたサールミア駅を活用して、南半球最大規模の鉄道博物館、ニューサウスウェールズ(NSW)鉄道博物館があります。

シドニーから公共交通機関を使って訪問するには、かなり不便なところ。まずはシドニーの中央駅から、市の周辺や郊外に7つの路線を運行するシドニートレインズのT8系統の電車で1時間と少々のキャンベルタウンへ。この駅にはシドニーとメルボルンを結ぶ長距離列車も停まるけど、昼行と夜行の1日2本では使えません。

1駅先で電化区間は終わり、この先は昼間は2時間に1本のディーゼルカーに乗り換え、30分余りで着くのがタフムア駅。GoogleMapを見ると、駅からNSW鉄道博物館まで4.5km。訪問したのは正月休みで現地は真夏。暑い中、日陰のない道を1時間歩くのはかなり厳しい。

▲ タフムア駅を発車していくディーゼルカー

GoogleMapで経路検索をすると、駅から鉄道博物館まで徒歩で54分のほか、訪問した土曜日は駅から徒歩6分の、幹線道路沿いの停留所からバスがあることが判明。博物館の有効時間帯にあるのは、11時と14時4分の2本だけ。平日は時刻が異なり、タフムア駅の他に1駅手前のピクトン駅からも有効時間帯にバスがあるけど、いずれも本数は極めて少なく、日曜はバスもお休みで運行はありません。

バス停に行ってみるとポールが立っているだけで、時刻表が無い。でも、買い物帰りらしき袋を持ったご婦人が一人、ベンチでバスを待っているので一安心。

▲ バスが来た

GoogleMapでは912系統としているけど、定刻より少し遅れてきたバスは900の表示。運転士に鉄道博物館に行くか聞くと、乗れとのこと。車内でGoogleMapにGPSを重ねて見ていると、バスは幹線道路からはずれて住宅団地の中を一回り。またもとの道に戻ってしばらく行き、鉄道博物館近くの交差点にあるバス停で下車したのは私だけ。乗り換えに要した時間を含めると、シドニー中央駅からここまでの所要時間は2時間半。

 

NSW鉄道博物館メインの展示館

NSW鉄道博物館は1962年の設立。シドニーの西方郊外のエンフィールドから現在地に移転したのは1976年で、メインの展示館はこの時に整備したのでしょう。なんでこんな不便な所にと思うのは、公共交通機関に頼らざるを得ない外国人だけ。皆さんクルマで来ているようです。

2019年の年始には週末のみ、SUMMER RAIL MOTOR RIDESを実施していたので、それに合わせて土曜日に訪問。廃線を走る旧型のディーゼルカーへの乗車とセットになった入場券を購入。博物館には、NSWの鉄道の歴史に関連する100両以上の機関車や客車等の車両や関連する機器類を展示しています。

▲ NSW鉄道博物館

英国のニューサウスウェールズ植民地に、標準軌の鉄道が開通したのは1855年。メインの展示館では、19世紀の車両や鉄道関連の設備等を展示。

▲ M36型蒸気機関車の牽くマッチ箱客車の模型と年表

軸配置Cのテンダ型蒸気機関車E18は、1865年の英国ロバートスチーブンソン会社の製造。この博物館で一番古い車両。

▲ 英国製E18号機

路線の延長に合わせて、急勾配線区の貨物列車牽引用に23両導入されたE17型のうちの1両。

▲ E18号機のキャブ

E18号機が連結している木造客車は、HKL360型郵便車。オール板バネのボギー台車に、バッファとねじ式の連結器。

▲ 郵便車

NSWで鉄道による郵便輸送が始まったのが1866年。

▲ 郵便物の投函口

この車両は1891年の製造。車内は郵政省が所有して国鉄が運行していた日本の郵便車とよく似ています。

▲ 郵便車の車内

走行中の車内での郵便物の仕分けは、1985年まで行われたのだとか。

▲ 車内で郵便物の仕分け

軸配置2Bのテンダ機関車Z17型1709号機は1887年、英国バルカンファウンドリーが製造した12両のうちの1両。1676mmの当時としては大直径の動輪を持ち、動態保存機らしい。

▲ Z17型1709号

1709号機が連結している客車はGG(The Governor-General's carriage)、オーストラリア総督用の車両としてNSWレイルが1900年に製造した、木造3軸ボギー車。残念ながら足回りは見えません。

▲ オーストリア総督用車両

内部は3部屋に分かれ、窓から覗くと豪華な内装。博物館のfacebookにある、この車両のバーチャルツアーの動画は、こちらからどうぞ

▲ リビングルーム

▲ ダイニングルーム

▲ ベッドルーム

この客車は1901年から1970年まで、多くのロイヤルツアーに使用されました。1954年には、英国のエリザベス2世女王とエディンバラ公を乗せたロイヤルトレインとして、NSW州内を運行したのだとか。

▲ エリザベス女王も乗車

煙突にナンバーを付けた軸配置B2のテンダ機、M36型蒸気機関車78号機は、1870年と1871年に36〜39号、1876年と1877年に77号と78号がシドニーで製造された、オーストラリアの国産機。

▲ 78号はオーストラリアの国産機

78号機が連結している窓の少ない木造ボギー客車は、Prison Van(刑務所車)。州内の刑務所間で受刑者を輸送するための車両で、1867年から1950年代まで運用されていたらしい。

▲ 運転席後部の側壁と扉は後付?

車内の前後には、鉄格子のはまった監房。高い位置に明り取りの小窓があるだけで、外は見えません。

▲ 刑務所客車の監房

車体中央の窓のある部分、ドア付近のクッション付き座席は看守の席でしょう。シドニーのトラム博物館には、刑務所トラムも保存展示されているので、鉄道による護送が一般的だったのでしょう。

▲ 看守の席

軸配置Bで、クレーンを装備したタンク式蒸気機関車1034号は1886年、英国スコットランドのグラスゴーでダブスが製造。吊り上げ能力は4トン。

▲ クレーン機関車1034号機

英国製だけあって、アニメのきかんしゃトーマスの仲間にも、1034号機によく似た車両がいますね。

▲ 後方から見たクレーン機関車

車両以外にも、駅の出札窓口のモックアップや、

▲ 内側から見た駅の出札窓口

鉄道で働く女性の服装なども展示。

▲ 鉄道で働く女性の服装

NSW鉄道博物館の公式ホームページの中で、メインの展示館内を歩き回り、バーチャル見学ができます。こちらからどうぞ

 

NSW鉄道博物館の蒸気機関車

メインの展示館から外に出ると、多数の保存車両が並ぶ展示スペース。グレート・トレイン・ホール。サールミア駅構内の留置線に屋根を設置し、線路の周辺を舗装して整備したものと思われます。

軸配置1Bのタンク式蒸気機関車、X10型1033号機は1885年、英国マンチェスターのベイヤー・ピーコック製。旅客列車用だったが、高速走行時に振動して揺れる特性から事故につながり、安定させるため前部緩衝ビームを重い鋳鉄製に交換。1901年以降は入れ換え用として使用したとか。

▲ タンク機関車1033号機

全長33m、重量260トンの巨大な蒸気機関車AD60型6040号機は、1956年英国のベイヤー・ピーコック製。長いので前から後ろへ、写真を4枚に分けて示します。

▲ ガーラット型6040号機 水槽の下にシリンダと動輪

軸配置2D2+2D2で、前部の水槽下の動輪と中央のボイラ、後部のテンダ下の動輪の3車体が連節構造でつながったガーラット型。動輪径1397mm。大出力で急曲線にも対応できるガーラット型蒸気機関車は、1900年代の初めにNSWレイルの技師による発明で、その後各地の英国植民地に導入。

▲ 水槽とボイラの接合部分

キャブとテンダの接合部には、自動給炭装置を駆動する蒸気エンジンを装備。

▲ テンダとキャブの接合部分

自動連結器とバッファを併用。本機は、1957年からシドニーの北西300kmのモロンとオレンジの間で鉱石列車を牽引し、1967年のディーゼル化による引退前には石炭や穀物輸送にも従事していたのだとか。

▲ テンダの下にシリンダと動輪

もう一両、グレート・トレイン・ホールの先にある巨大なターンテーブルの上にも、ガーラット機6029号。こちらは1954年のベイヤー・ピーコック製、1972年まで活躍し、現在はAD60型で唯一の動態保存機。このときは整備中らしく、水槽と煙室前部が取り外されています。扇形庫はシャッターが閉まっていて、中をうかがうことができません。

▲ もう一両のガーラット型6029号機

グレート・トレイン・ホールに戻ります。軸配置1D1の貨物機、D59型5910号機は、1952年に米国のボールドウイン・リマ・ハミルトンで製造。当時は石炭産業のストライキが頻発していたので、重油炊き仕様とした蒸気機関車。1960年代に石炭炊きに改造。自動連結器とバッファを装備。幹線の貨物列車を牽引し、性能が良く5910号機は1972年、同型機は蒸気機関車末期の1975年まで活躍し、全20両のうち今も5両が保存されているのだとか。

▲ ミカド型5910号機

軸配置1DのD55型5595号機は1924年、NSW州グランビルのクライドエンジニアリング社製の国産機。D50、D53型とともに、NSWの標準的な貨物機。D55型120両のうち70両は、戦後の石炭事情の悪化により重油炊きに改装され、後に14両が供給改善後に石炭炊きに戻されたがそれ以外は廃車。5597号機は、D55型の中で最後まで残り1967年まで活躍しました。

▲ コンソリデーション型5595号機

軸配置2CのC30T型3001号機は1903年、英国のベイヤー・ピーコック製。製造時は軸配置2C2のC30型タンク式蒸気機関車で、国産の50両を含む145両の同型機とともに、シドニー近郊の旅客列車を牽引。1926年の幹線の電化で、3001号機は他の77両とともにC30T型テンダ式蒸気機関車に改造され、支線に移って1967年まで運行。

▲ テンホイラー型3001号機

軸配置2C2のタンク式蒸気機関車3137号機は、オーストラリア国内NSW州営鉄道のエヴェリー工場で製造。上の3001号と同一形式145両のC30型ながら、テンダ式に改造されることなく、タンク式のままで残ったグループ。1970年代から80年代に、動態保存機として博物館の列車を牽引したものの、ボイラーの老朽化により1990年代から静態保存に。

▲ バルチック型タンク機3137号

軸配置2CのZ25型2510号機は1881年、英国のベイヤー・ピーコック製。70両が幹線の貨物用として運行。これ以前の軸配置Cの機関車に対して、ブルーマウンテンズの勾配路線の曲線部をスムーズに走行できるように2軸の先輪を設置。

▲ テンホイラー型2510号機

軸配置1C2のZ20型タンク式蒸気機関車2029号。Z20型は英国製の他型式から改造された機種も含め33両あったが、本機は1911年製の国産機7両のグループ。シドニーをはじめとする都市の郊外で運行。

▲ アドリアティック型タンク機2029号

軸配置2C1のタンク式蒸気機関車、Z13型1301号は、1877年に英国のベイヤー・ピーコックで幹線の旅客列車や郵便列車を牽引する、軸配置2Cのテンダ式蒸気機関車として製造。1892年に新型機が導入されると、余剰となった20両が1896年から1902年にタンク式に改造されて、シドニー郊外の旅客列車用に就役。その後、ローカル線の小運転や入れ換え用に転用。

▲ パシフィック型タンク機1301号

軸配置2C1のC38型は、動輪径1753mm、1943年から1949年にかけて30両製造された、オーストラリアを代表する高速旅客蒸気機関車で最高速度110km/h。3820号機は1947年のオーストラリア国内NSW州営鉄道のエヴェリー工場で製造され、“メルボルンエクスプレス”や“ニューカッスルフライヤー”など牽引して、1970年まで稼働。

▲ パシフィック型急行旅客機3820号

もう一両、緑の塗装のC38型、ラストナンバーの3830号機は1949年製。1997年から2009年まで動態に復帰し、現在は修理中のようです。

▲ パシフィック型急行旅客機3830号

C38型の最初の5両は流線型で、トップナンバーの1943年製3801号機は動態保存中。2008年のオーバーホール時に換装した新しいボイラに問題があり、12年を経て2020年にやっと稼働状態に復帰したのだとか。

▲ パシフィック型急行旅客機3830号のキャブ

軸配置Cで、水タンクがボイラの上に乗ったタンク式蒸気機関車PWD79号機。シドニーから海外沿いに南へ100kmほどのところにあるポート・ケンブラに、オーストラリア製鉄のプラント建設における港湾荷役のため、1938年に導入された産業用蒸気機関車。

▲産業用シックスホイールドカップル型PWD79号機

軸配置Cで、水タンクがボイラの上に乗ったタンク式蒸気機関車の側面には、AUSTRALIAN IRON & STEEL LTDの表記と、BRONZEWING(虹鳩)のプレート。ポート・ケンブラの製鉄所の構内で働いた産業用蒸気機関車で、後ろに連結している白い貨車は、高炉から出た溶けた銑鉄を運ぶトーピードカー。自動連結器とバッファーを装備。

▲ 産業用蒸気機関車BRONZEWING


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