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駅前を通るトラムの線路は、ポイントで分かれ複線になってその先は車庫へ。門扉があるけど開いているので行ってみることに。
▲ 車庫と駅前をつなぐトラムの線路
カーブしたソーイェル駅のホームの端まで来ると、向こうの線路の先に5線ある建屋から、4両のトラムが顔をのぞかせています。
▲ 車庫に並ぶトラムの車両
ソーイェル駅を発車したパルマ行きの列車が走り抜ける本線をはさんで、右がトラム、左は鉄道線車両の車庫。線路幅は同じ914mmでも、架線電圧がトラムはDC600V、鉄道線はDC1200Vと異なるので、場所を分けているのでしょう。
▲ 車庫の真ん中をパルマに向かう線路が突っ切る
転車台は、1912年にソーイェル鉄道が蒸機列車で開業した当時からの設備でしょうか。その左側には扇形庫があり、庫外のレールにはトロッコのような台車も乗っているけど、この部分へは架線がないので電車は入らないのでは。
▲ ターンテーブルと左側には扇形庫
駅の方に振り返ると3線の検修庫があり、駐車しているクルマの向こうにオープンデッキの木造客車と並んで木造電車の姿が見えます。屋外にいた職員にカメラを見せ、写真を撮らせてとお願いしたら、言葉が通じたのかは怪しいけど、ダメとは言わなかったようなので検修庫の中へ。
▲ 検修庫と留置線
ピットの上にいるのは、お目当ての木造電車2号。正面の貫通扉に加え、屋根上にもナンバーを表示。1929年の電化時に導入された自重33トン、出力360馬力、今や90歳のご老体。当初の計画では、パルマからこれに乗ってソーイェルまで来るはずだったのに。
▲ 木造電車2号がいた
床下を覗いてみると、台枠にはトラス棒。リベットのない台枠の外側の鋼材や正面のスカートは、後付けのようにも見えます。
▲ 2号の足元とピットの様子
電車の車内は、中央の窓のない機械室をはさんで前後2部屋に分かれ、パルマ側はもとは1等室なのか大きなソファー。出入り口の壁面を背に1人がけと2人がけがそれぞれ2脚ずつ。中央には窓を背に3人がけが2脚で定員12名。
▲ 2号の車内 もと1等室
ソーイェル側は、もと2等室なのか木製の4人がけボックス席が並び、同じ窓3つ分の広さだけど、こちらの定員は2倍の24名。
▲ 2号の車内 もと2等室
この電車は、機関車のように客車を牽引するので、正面中央のバッファの両側にねじ式連結器、ヘッドライトの下にジャンパ栓とエアブレーキのホースを装備。
▲ 2号のソーイェル側
検修庫の奥には、同型の3号がいます。
▲ 木造電車3号
運転室と客室間の、オープンデッキのステップの部分に貼ってあるメーカープレート。CARDE Y ESCORIAZA について調べてみると、本土のサラゴサにあった19世紀末から路面電車を製造するメーカーで、合併により現在はスペインを代表する鉄道車両メーカ CAF のサラゴサ工場に引き継がれているらしい。
▲ 木造電車3号のメーカープレート
デッキから中を覗くと、運転席の機器類を整備中。
▲ 3号のデッキから見た運転室
作業員に“オラ”と挨拶して車内を見せてもらいます。
▲ 運転室の機器を整備中
客室では、電球の交換なのか室内灯のグローブを開けて作業中。
▲ グローブを開けて室内灯の交換
3号の隣のピットには、オープンデッキの木造客車の3両編成が入場。鉄道線の客車は全てこのタイプのようで、浅いシングルルーフに大きな2段の側面窓。1912年の開業時に蒸気機関車に牽かれた客車にしては、デザインが新しいような気がするので電化時に用意したのか、いろいろ調べてみたけど情報が見つかりません。
▲ 隣には客車も入線
客車のボギー台車は、枕バネも軸バネも板バネで構成された古いタイプ。
▲ 台車は枕バネも軸バネも板バネ
座席は、車端部のみ固定式、その他は枠が鉄パイプの転換式のクロスシート。
▲ 客車の車内
このシート、新しくはないけど後で交換したものでしょう。
▲ 車端部を除き転換式のクロスシート
連結面の貫通路は、渡り板を跳ね上げていて、通常は使用していないのでしょう。渡り板に描いたマークは、日本なら駐停車禁止の道路標識だけど、スペインではこれが通行止めを表すのでしょうか。
▲ 客車の連結面
その隣に入場している一回り小さなオープンデッキのボギー客車は、トラムに連結する客車。クラシックなスタイルの木造車だけど、2000年以後にここで製作した自家製の新型車らしい。
▲ トラムに連結するオープン客車
窓ガラスがなく、腰板もスケスケの夏仕様。車内は4人と6人のボックスシートと、詰め込みタイプで窮屈そう。
▲ 4人と6人のボックスシート
ピットの奥に、ブリル21Eタイプの2軸のトラム用の台車。ポルトガルのリスボンから買ってきた5両の中古車のうち、24号だけ見かけなかったので、どこかで自家製の車体を製造中なのかもしれません。
▲ トラムの2軸の台車
検修庫の隣、駅に続く線路には、鉄道線の木造客車の編成が留置中。
▲ 駅に続く留置線
もう一ヵ所、本線をはさんでトラムの車庫と並ぶ方の建屋の中には天井走行クレーンがあり、木造電車4号が高いところに上がっています。取り外したのであろう2基のパンタグラフは、車輪の付いた台車の上。
▲ 整備中の4号とパンタグラフ
4号から抜いた電動ボギー台車は、昔の路面電車で一般的なブリル77Eタイプ。ギヤ比を大きくとっているのか、シーメンスの90馬力のモーター4基で6両の長い客車の編成を牽引できるんですね。
▲ 路面電車のような4号のボギー台車
荷台に高い箱を乗せた2軸のレールカー。車体の横に脚立を取り付けています。電化当時に導入した架線修理車でしょうか。
▲ 架線修理車でしょうか
もう1台、クラシックカーを改造したようなレールカー。
▲ 巡回車?
後ろ向きにもヘッドライトがあって、このクルマが走っているところを見てみたい。
その奥には木造電車1号。これで、鉄道線の木造電車には4両全車に出会うことができました。
▲ 後ろにもヘッドライト 奥には1号
本線をまたいでトラムの車庫へ。トラムの車両については、Wikipedia の“Tranvía de Sóller”の情報をもとにしています。
並んでいる2軸の単車1号と2号は、もう1両の3号も含めソーイェル鉄道の翌年、1913年にソーイェルから5km先の港のある海岸、ポルト・デ・ソーイェルまで開通したソーイェルトラム生え抜きの車両。メーカは鉄道線の1〜4号と同じ CARDE Y ESCORIAZA。御年100歳を優に超えています。
▲ トラムの1号と2号
車内は1人がけと2人がけのクロスシートで、車端部を除き転換式。運転室と出入口が一段低く、そこからドアを開けて室内に入る、明治のチンチン電車タイプ。出入口は、ポルト・デ・ソーイェルに向かって右、山側だけで左の海側が閉じられているのは後年の改造によるものでしょう。
▲ 車内は2人と1人のクロスシート 車端部を除き転換式
台車は米国型のブリル21Eタイプ。軸箱が丸いのは、ローラーベアリングに改造でしょうか。
▲ 2号の台車
1号、2号ともピン・リンク式の連結器で、後ろにオープンデッキで窓ガラスのない2軸客車をそれぞれ2両ずつ連結。
▲ トラムに連結した2軸のオープン客車
この2両の客車の間の連結面は通行できる構造。
▲ 2両の客車間は通り抜けができる
デッキも客室も、海側には柵があるものの、山側はオープンで乗り降り自在。最高速度25km/hとはいえ、運行中に乗客が転げ落ちる事故はないのでしょうか。床の上に車輪カバーの丸い出っ張りが。
▲ 2軸の客車の車内は4人がけのボックスシートで片側は常時オープン
この4両は1890年の CARDE Y ESCORIAZA 製で、1954年にパルマ・デ・マヨルカから購入となっているので、調べてみると1891年にパルマに開通した鉄道馬車の車両がルーツらしい。その後パルマのトラムは1910年代に電化されたが、戦後は縮小傾向で、最後に残った路線の廃止は1959年だとか。
▲ 1号が連結する客車と2号の客車 側面に柵があるのは海側だけ
隣の建屋には生え抜きの3号と、ポルトガルの首都リスボンから買ってきた1937年製の中古車を1〜3号とそっくりに改造した23号。リスボンの線路幅は900mmなので、入線時に車輪の幅を広げて914mmに合わせたのでしょう。また、23号は入線時とは車体の形状が全く異なるので、台枠と機器を流用して車体は新造したと推測します。
▲ 3号と24号
3号の運転席には、昔のシーメンスのロゴが浮き出た直接制御器と、大きな輪のハンドブレーキ。中央のスイッチ類やその右奥のエアブレーキは、後年の追加改造でしょう。
▲ 3号の運転台
リスボンの中古車を改造した22号の車内は、今もリスボンで運行中の旧型車と同じ出入り口付近がロングシートで、中間は2人がけの転換式クロスシート。
▲ 23号の車内は出入り口付近がロングシート 中央部は2人がけの転換式クロスシート
リスボン当時からのものと思われる23号の直接制御器はEE、イングリッシュエレクトリック製。その他の機器配置は3号とほぼ同じ。
▲ 23号の運転台
3号が後ろに連結しているオープンデッキの木造ボギー客車は、先ほど検修庫のピット上で見かけたオープンタイプのボギー客車に腰板と窓ガラスを取り付けたスタイルで、2000年以降の自家製の新造車らしい。
▲ オープンデッキの木造ボギー客車
21世紀の新車でも古い板バネの台車を履いているので、どこからか中古品を都合してきたのでしょう。同型のボギー客車が後ろにもう1両と、隣の線の庫外に1両、それに23号と20号の間に2両連結されています。
▲ トラムの客車のボギー台車
その20号は、海側の扉を埋めてトロリーポールをパンタグラフに換装し、腰板の部分に木目の短冊板を張って木造車風に見せかけた以外は、リスボン当時のままの丸いスタイルを保っています。
▲ リスボンの姿を残す20号
車内は、両端の出入り口付近がロングシートで、その間は転換式クロスシート。
▲ 20号の車内